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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)21号 判決 2000年11月29日

原告

小林清

被告

下久誠

主文

一  被告は、原告に対し、金一二七五万三四〇〇円及びこれに対する平成一〇年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一七五八万七三七八円及びこれに対する平成一〇年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成一〇年六月二〇日午後九時一〇分ころ

(二)  場所 大阪府高石市羽衣一丁目六番三五号先路上(府道堺阪南線)

(三)  加害車両 被告運転の普通乗用自動車(和泉五〇ま五〇九二)

(四)  被害車両 原告(昭和二四年五月二〇日生、当時四九歳)運転の普通乗用自動車(なにわ三三り八〇三九)

(五)  態様 被害車両が北から南に向けて走行中、後続の加害車両が被害車両に追突したもの

2(責任)

被告は、加害車両を保有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条の責任を負う。

3(傷害、治療経過、後遺障害)

(一)  傷害

右母趾末筋骨骨折・基節骨骨折、腰部捻挫、頸部捻挫

(二)  治療経過

(1) 医療法人ペガサス馬場記念病院

平成一〇年六月二〇日から同月二二日まで通院(実通院日数二日)

骨折部シーネ固定

(2) 医療法人景岳会南大阪病院

平成一〇年六月二三日から平成一一年二月二七日まで通院(実通院日数一〇四日)

(三)  症状固定日

平成一一年二月二七日

(四)  後遺障害

(1) 右母趾の関節運動可動域は、次のとおりであり、右足の親指をほとんど曲げることができない。

<1> IP(指節間関節)

屈曲 自動 一〇度、他動 一五度(正常可動範囲は六〇度)

<2> MP(中足指節間関節)

屈曲 自動 一〇度、他動 一〇度(正常可動範囲は三五度)

(2) 自動車保険料率算定会の認定

右足の第一足指の用を廃したものとして、後遺障害等級一二級一一号に該当するとの認定を受けた。

4(損害填補)(三四四万円)

(一)  自賠責保険金 三〇六万〇三二〇円

(二)  治療費 三七万九六八〇円

二  争点

1  損害

(一) 治療費(原告負担分) 〇円

(二) 通院交通費 四万六六〇〇円

(1) 馬場記念病院

南海線(住之江から諏訪森まで) 片道 二五〇円

タクシー(諏訪森から病院まで) 片道一〇〇〇円

(250円+1000円)×2(往復)×2日=5000円

(2) 南大阪病院

大阪市バス 片道 二〇〇円

200円×2(往復)×104日=4万1600円

(三) 傷害慰謝料 一二〇万円

通院八か月と八日(実通院日数一〇六日)

原告の症状からして、本来なら入院相当のケースであったが、あえて自宅で安静に努めて療養していた。当初の二か月程度は、骨折部分をギブスで固定して安静状態を保つように指導されていたことと、痛みも継続していたため、通院日数が少ないが、これは傷害が軽傷であったためではない。

(四) 休業損害 四四〇万円

原告は、もと建設関係の会社を経営していたが、平成六年ころ倒産し、その後、平成九年一二月からロシアの絵画の物販・レンタルを主たる業とする株式会社コンドルで給与月額五五万円の約定で営業社員として勤務していた。

原告は、本件事故後、症状固定までの約八か月は、右業務に就くことは全くできない状態であった。

55万円×8か月=440万円

(被告・被告は、本件事故の二日後〔平成一〇年六月二二日〕から二七日間〔平成一〇年七月一九日レンタカー引取り〕、原告の要求に応じて代車を提供しており、本件事故後八か月間就労不能であったということはできない。)

(五) 後遺障害慰謝料 二六〇万円

(六) 逸失利益 一〇八〇万一〇九八円

原告は、右足親指に断続的に痛みが残っており、右足のつま先部分を使いにくいことから、アクセルとブレーキを踏む自動車の運転動作に一定の支障があること、自動車の運転により営業業務を行う際に痛みのあまり休憩を重ねることを余儀なくされることが多いこと、また、相当の重さのある絵画の運搬にも支障を来すこと等により、業務能率が低下していることが明らかである(結局原告は退職した。)。

労働能力喪失率 一四パーセント

就労可能年数 一八年(ライプニッツ係数一一・六八九五)

55万円×12か月×0.14×11.6895=1904万7698円

(被告・右足指の可動域減少は、その部位、程度、適応見込み等からみて、労働能力喪失率五パーセント〔一四級と同程度〕、継続期間六年〔四九歳から六七歳までの一八年間の三分の一〕とすべきである。)

(七) 以上合計一九〇四万七六九八円(既払三〇六万〇三二〇円)

(八) 弁護士費用 一六〇万円

2  過失相殺

(一) 被告

(1) 原告は、本件事故当時、靴を脱ぎ、裸足の右足で運転していた。

(2) 原告の骨折した部位は、裸足の右足(親指)のみである。

(3) 裸足での運転は、法令違反ではないものの、本件事故当時靴等を覆いていれば、右足指を骨折しなかったか、あるいは、骨折がもっと軽度で済んでいた可能性が極めて高い。

(4) よって、損害額から、五〇パーセントを減額すべきである。

(二) 原告

原告は、本件事故当時サンダルを脱ぎ裸足で運転していたが、道路交通法上何ら違反行為ではないから、一方的な追突である本件事案において、過失相殺ないしこれに類似する理屈により損害を減額する理由はない。

3  素因減額

(一) 被告

(1) 原告の通院日数は、それまでの月三ないし四日であったものが、平成一〇年九月以降月一三ないし一八日と急増しているが、これは、原告には既存障害として、腰部椎間板ヘルニアがあり、平成一〇年八月から、ヘルニア治療のため、介達牽引を始め、平成一一年二月まで続けていることからみて、本件事故によるものではなく、持病のヘルニア治療のために通院日数が急増したものとみられる。

(2) よって、素因減額として六〇パーセントの減額をすべきである。

(二) 原告

(1) 前記治療は、腰部捻挫による腰痛に対するものであって、椎間板ヘルニアに対する治療ではない。

(2) 原告は、平成七年五月三一日、大阪府立病院で椎間板ヘルニアの手術をしたが、手術により改善の効果が生じ、同年中には腰痛はなくなり、本件事故前も腰痛の症状は全くなかった。

(3) 平成一〇年六月二六日のMRI検査によれば、第四・第五腰椎間に軽度のヘルニアが認められる程度で。第四腰椎椎体に骨折の疑いもみられたが、医師の診断では問題がないというものであり、ヘルニアについては、特に異常というほどの所見は認められなかった。

第三判断

一  争点1(損害)

1  治療費 三七万九六八〇円(争いがない。)

2  通院交通費 四万六六〇〇円(弁論の全趣旨)

3  傷害慰謝料 一一五万円

原告の傷害の部位、程度及び通院状況等を総合考慮すると、傷害慰謝料は一一五万円と認めるのが相当である。

4  休業損害 一九四万六四〇五円

証拠(甲九、一一、一二、乙一)によれば、原告は、平成九年一二月一日から株式会社コンドル(ロシアの絵画の物販・レンタルを主たる業とする。)の営業課長として就労していたこと、平成一〇年八月二五日ころには営業活動をしていること、平成一〇年六月二二日から同年七月一九日まで代車の提供を受けたことが認められる。

そこで原告の収入について検討するに、甲九(株式会社コンドル作成の休業損害証明書)、甲一〇(平成九年源泉徴収票)には、原告の給与について月額五五万円との記載があるが、これを裏付けるに足りる証拠はないこと、原告の年齢等を考慮すると、原告については、少なくとも平成一〇年賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男子労働者の全年齢平均賃金である年五六九万六八〇〇円(月額四七万四七三三円)の収入を得ていたものと認められる。

以上の事実に、原告の傷害の部位、程度を考慮すると、原告の休業損害は、当初の二か月間は一〇〇パーセント、その後の三か月間は五〇パーセント、その後の三か月間は二〇パーセントの労働能力を制限されていたものとして算定するのが相当であるから、次の計算式のとおり一九四万六四〇五円となる。

47万4733円×(1×2か月+0.5×3か月+0.2×3か月)=194万6405円

5  後遺障害慰謝料 二六〇万円

原告の後遺障害の部位、程度からすると後遺障害慰謝料は二六〇万円と認めるのが相当である。

6  逸失利益 九三二万二九八四円

原告(症状固定時四九歳)の後遺障害の部位、程度からすると、逸失利益は、労働能力喪失率は一四パーセント、就労可能年数は六七歳までの一八年間(ライプニッツ係数一一・六八九五)として算定するのが相当であり、次の計算式のとおり九三二万二九八四円となる(なお、原告の後遺障害は、骨折を原因とする足指の用廃であるから、労働能力喪失率を五パーセントとみることはできず、また、喪失期間を限定しなければならない理由は見いだし難い。)。

569万6800円×0.14×11.6895=932万2984円

7  以上1ないし4(治療費、通院交通費、傷害慰謝料、休業損害)の合計は三五二万二六八五円となり、5、6(後遺障害慰謝料、逸失利益)の合計は一一九二万二九八四円となる。

二  争点2(過失相殺)

原告は、本件事故当時、裸足の状態で運転していた(争いがない。)ものであるが、右は違法ではないし、本件事故が被告の一方的過失により発生していることも考慮すれば、右を理由に損害額を減額することは相当ではないから、被告の主張は採用しない。

三  争点3(素因減額)

1  証拠(甲五の1ないし8、六の1ないし8、乙二、三)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故以前の平成七年五月三一日、大阪府立病院において腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた。

(二) 原告の南大阪病院における通院日数は、次のとおりである。

平成一〇年 六月三日

七月三日

八月四日

九月一三日

一〇月一八日

一一月一六日

一二月一六日

平成一一年 一月一六日

二月一五日

(三) 右の平成一〇年九月から通院日数が増加したのは、同年八月下旬から開始された腰部に対するリハビリテーションを主とするものであった。

(四) 原告の骨折部位は、平成一〇年一〇月二一日には骨癒合した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、原告の既往症である腰椎椎間板ヘルニアが、原告の治療期間に影響し、これを長期化させているものといえるから、これによる損害(治療費、通院交通費、傷害慰謝料、休業損害)について、その合計額から一割を減額するのが、損害賠償制度の理念である衡平に適うものと考える(原告の後遺障害は足指に関するものであり、腰椎椎間板ヘルニアとは無関係である。)。

そこで、前記一(損害)1ないし4の合計額三五二万二六八五円から、その一割を控除すると、三一七万〇四一六円となる。

四  損害填補(三四四万円)

三四四万円が既に支払われているから、前記素因減額後の治療費、通院交通費、傷害慰謝料、休業損害の合計額三一七万〇四一六円と後遺障害慰謝料、逸失利益の合計額一一九二万二九八四円の合計一五〇九万三四〇〇円から右三四四万円を控除すると、一一六五万三四〇〇円となる。

五  弁護士費用 一一〇万円

本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用は、一一〇万円と認めるのが相当である。

六  よって、原告の請求は、一二七五万三四〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成一〇年六月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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